宇都宮木鶏クラブ
孔子における天と人道
では、血縁を重んじるという理念の源である中国古代の思想はどのように形作られているのでしょう か。
先程申し上げたとおり、 古代の中国では、天は万物を生み出すものであり、万物を支配するものと信じ られていました。 万物はその中に精霊を持ち、この精霊の意志命令によって動くと信じられていたわけ です。精霊は鬼神と呼ばれ、天が最高の鬼神と仰がれていました (板野長八 「中国古代における人間観 の展開」 22頁)。
さて、紀元前11世紀頃に成立した周王朝がまだ存続していた春秋時代(紀元前770年~403年)に活躍し たのが孔子(前551年~479年)です。
孔子は「論語」で、天が徳を我に授けられたと言いました。 は人間としての能力であり、人間の本質で す。人間は天のもとに立つものであって天から独立したものではありません。 さらに、 孔子は五十にして 天命を知ると言いました。 天は人間の則るべきものなのです(板野 26頁)。
このように、孔子は天が人間を含めた全てを生み出すと考えていたわけです。 人間が則るべきものとし
ての天は、天道として受け容れられました。 これは天命と言うこともできます。
ところが孔子は、 「性相近し、 智相違し」、天与の素質としての性の点ではそれほど開きはないが、後天 的な習慣修養によって人と人との間に開きが出ると言っているのです(板野26頁)。 このことは、 天が人 間の全てを決定するわけではない、人間の独自性もある、こういったことを意味しているのではないかと 考えられるのです。
ここには人道といったものがあります。 人道は天道に対する存在です。
では、孔子は人道をどのようにとらえていたのでしょうか。
性は天与の素質であり、そこには徳も含まれます。 そして皆に勤めることによりは充実し、命に達しま す。この充実すべき部分も、実は、天命によって規定されたものです。 孔子の人間は宿命的なものだっ たわけです(板野28頁)。
孔子は天によって定められた分というものを重視しました。 また、礼とは習として伝統的に行われてい た行儀作法で、聖人が天に則って制定したものです(板野29頁)。 個々の人間は自己を抑制して礼を履 行し、 個を分に限定すべきであり、 君主は人道・札を超えることはできず、したがって被支配者には分だ けの独自性があったのです(板野30頁)。
ただ、孔子の人道は、 天道の内部で分化したものでした。 そして、 その分を守り、人の道を遂行して天道 に近接すべきとされたのです(板野34頁)。
さて、孔子は人間の徳を仁によって表明しました。 仁とは人間性であると言うことができます。 思いやり、 愛といった人間社会を成立させているもので、 仁は諸徳を包括するものであり、諸徳の根本であるもの でした (板野36頁)。
そして、孝は仁を為すの本であり、己に克ちて礼に服するを仁となすとしました(板野14頁)。仁は孝梯 を出発点とし、 孝悌の精神を推し及ぼすことによって実現されるわけです。
孝悌はまさに血縁関係を基盤にしたものです。 言うまでもなく血縁関係は天が定めたものです。 孔子の 意図は、血縁を基礎とする家族・宗族の閉鎖性を維持し、 その独自性を前提とした上で、 君臣関係を明 らかにするところにあったと考えられるのです(板野31頁)
「天道は自然に行われる道で、人道は人の立てるところの道だ。 もとより区別が判然として いるものを、混同するのは間違いだ。 人道は努めて人力をもって保持し、 自然に流動する 天道のために押し流されぬようにすべきものだ。
天道にまかせておけば、堤は崩れ、川は埋まり、 橋は朽ち、家は立ち腐れとなる。 人道は これに反して、 堤を築き、 川をさらえ、 橋を修理し、屋根をふいて雨のもらぬようにするの だ。
身の行いも同様であって、 天道は寝たければ寝、 遊びたければ遊び、 食いたければ食い、 飲みたければ飲むという類だ。 人道は眠たいのをつとめて働き、遊びたいのを励まして戒 め、食いたい美食をこらえ、飲みたい酒を控えて明日のために物をたくわえる、 これが人道
「なのだ」 (「夜話」 五〇 )
天道と人道は異なると言う事を二ノ宮尊徳は喝破していました。 これは天道と人道が相反するものを指すわけではありません。 天道と人道を如何に融和させるかが人生の成功につながる事を示唆しているのだろうと思 います。 田畑は人間が手を入れなければ数年待たずに荒野に成りますが、正しい手入れをすれば
自然の力を活用して作物を回収することが出来ます。
お天道様 おてんとうさま。 太陽の通り道
天道
年々巨大な地震や台風で国土が荒らされる。
日々山で樹木が生育し、やがて手入れを怠った森林がジャングル化する。
毎年渡り鳥が群をなして飛翔する。
〈人道〉
現代社会を象徴する新幹線、高速道路等の輸送網が充実する。
世界を覆うネットが万物の上に君臨する。 とことんエネルギーを開発する。
人工高分子など自然界に存在しなかった物質が造り出される。
遺伝子組み替え技術により医薬品や食料の開発、増産が計られる。 災害で荒らされた地の復興や災害対策工事が公共の費用で行われる。